肉食系御曹司の餌食になりました
そんなふうに彼を非難することで、その色香に惑わされることなく、自分を保って会話を続けることができた。
マスターにプレゼントしたというプレミアレコードの話を聞いて、誕生日会が始まったときはマスターがコスプレしていたことを教える。
それと、今ステージ上にいる演奏メンバーの説明なんかを適当に話した。
ここでは私はスタッフで、彼は客。
主導権は握らせずに、会話の流れを当たり障りのないものばかりで私が作っていた。
すると彼は「今日は随分と雄弁ですね」と薄く笑う。
「これまで、私に興味がないという顔をして、あまり言葉を交わしていただけなかったのに、どういう風の吹き回しですか?」
その言葉にギクリとする私。
彼が二回目に来店したとき、支社長室に忘れた抹茶プリンを渡されて肝を冷やした。
結局、正体がバレていたわけじゃなくてよかったけれど、ボロを出さないために、あまり話したくないというのが本音。
三回目の来店以降は、呼ばれても椅子に座らず挨拶程度で店を出たり、予めマスターに今日はステージの後に予定があると伝えておき、挨拶もせずにそそくさと帰ったりしていた。
だから彼に『興味がない』と思わせたのも無理はない。