肉食系御曹司の餌食になりました

「別に、そういうつもりはなかったんですけど……」

私の方が優位に立っていたはずなのに、いきなり逆転されて言葉に困る。

アルフォルトは、店を支えてくれる常連客を大切にしている。

その常連と等しく招待されたこの人を邪険に扱うわけにいかないし、すっかりマスターに気に入られてしまった今の彼には、Anneという商品を悪く思わせるわけにはいかない。


目を泳がせ、グラスに残ったワインを一気に飲み干す私。

そのグラスに彼は赤ワインを注いでくれて、余裕の表情でクスリと笑う。


「アンと距離を縮められた気がして嬉しいです。これからも、もっと私と会話をして下さい」


「はい」と言わされ、心の中で『やられた』と呟く。

常に私より一枚も二枚も上手な支社長。

会社の外であっても、その関係は変えられないみたい……。


会話の主導権を取られた後は、いつからこの店で歌っているのか、出演のない夜はなにをして過ごしているのか、地元は札幌なのかなどの情報を取られる。

不思議と『本業は?』と聞かれない。

月に三、四回の出演だけで食べていけるほどの稼ぎがあるとは、まさか思っていないだろう。

一番聞かれそうな質問がこないことに疑問を抱きつつも、身バレに繋がらない質問ばかりなので緊張せずに返事ができる。

次の話題は……。


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