肉食系御曹司の餌食になりました
「今日はいつもと衣装が違いますね」と言われた。
そういえば、太ももまでスリットが入っていたり、背中や胸の谷間が見えるセクシーなドレス姿しか、彼は見ていない。
マスターの誕生日会では私が主役のようなドレスは着れないから、いつもより控え目に映るのかもしれない。
それでもベージュの膝丈ワンピースは光沢のある生地で、亜弓のときには身につけない服だし、存在感のあるアメジストのネックレスはステージ用のもので派手。
それに加えて濃いめのメイクで、ミルクティー色のウィッグを被っていれば、割と目立つ姿だと思うのに。
思わず自分の服に視線を落とすと、「今日はアンの普段の姿を見られて、特をしました」と彼は言った。
ああ、おかしいというのではなく、いい方の意味で服装について話題にしたのか。
でも、『アンの普段の姿』という表現は間違えている。
普段というのは、地味な亜弓の方しか存在しないから。
心の中でそんな反論をしていたら、後ろから頭に誰かの手が乗った。
くしゃくしゃと撫でられ、ウィッグが取れると慌ててその手を払って振り向いたら、カイト。
外国銘柄のビールの小瓶を持つ彼の白目は、充血していた。