肉食系御曹司の餌食になりました
そう思ってドアの取っ手を引っ張ると、開いた。本当に鍵を閉め忘れている。
中は真っ暗で誰もいない様子。悪いと思いつつも、少しだけと自分に言い訳して場所を借りることにする。
入口横の電気のスイッチを押すと、広さ十畳ほどの狭く細長い店内は、L字型のバーカウンターで埋まっている感じだった。
テーブル席はなく、棚の中身は空っぽで、備品のほとんどは既に搬出済み。
残されているのは荷造り用のビニール紐とガムテープ、段ボール箱くらいだ。
ドアが開いていたのは、うっかりではなく、盗られるものがないからかもしれないと思い直す。
それでも放火などの可能性もあるから、施錠するべきだと思うけれど。
カイトは椅子に座ると、「なんだよ、俺とふたりになりたかったのか?」とヘラヘラ笑って聞く。
私は立ったままで壁に背を預け、酔っ払いの赤い目を見据えて、まずは注意をした。
「飲み過ぎ。この後はノンアルコールビールにしときなよ」
「うるせーな。なんでお前の言うこと聞かなきゃなんねーの?」
そう言われると、そうかもしれない。
一年前までなら、彼女として注意する権限は持っていたが、今は友達とも呼べない希薄な関係だし。