肉食系御曹司の餌食になりました
カイトの反論も一理あると思ったので、飲み方についてはこれ以上口出しせず、本題に入った。
「さっきのお客さんに、私の素顔について話すの、やめてほしいんだけど」
端的に用件のみ伝えると、カイトは馬鹿にしたように鼻で笑った。
「へぇ、俺のときには平気でダサい格好してたくせに、あいつの前じゃ隠したいのか」
「嫌な言い方しないでよ」
「ああいう紳士面した奴は大抵、うまく遊んでるぞ。お前がマジになったって、本命はどこかのお嬢様なんじゃねーの?」
カイトはなにかを勘違いしている。
私は別に支社長を狙っているから、地味な本性を隠したいわけじゃない。
それ以外の、陰で遊んでいそうだという意見には同調するけれど。
「違うよ。狙ってるんじゃなくて、あの人、勤務先の支社長なの。私が部下だとまだ気づかれてないけど、副業が会社バレすると色々とマズイから……」
だから本当は店に来てほしくないのに気に入られて、逆に困っているのだと説明した。
大人しく、生演奏とお酒を楽しむだけならいいとしても、私と親しくなろうと企んでいる気がして焦ってしまう。
いつの間にかマスターを手懐けているし……そうだ、マスターにも口止めしておこうか。
いや、私の勤め先は教えていないから、うっかり話題に上がられないよう、反って事情説明しない方がいいかな。