肉食系御曹司の餌食になりました
私が真剣に困っているというのに、カイトはなぜか声を上げて笑っていた。
酔っ払いには、なにを言っても無駄か。
口止めはまた後日に……そう思ったら、カイトが椅子からふらりと下りて、一歩で距離を縮めると、私の顔横に両腕を突き立てた。
「この手は、なに?」
「壁ドンってやつ、女はみんな好きだろ」
「私は好きじゃない」
カイトは善人でもないが、悪人でもない。
年長メンバーに可愛がられる存在で、本業の電気整備技師の仕事は真面目にやっている。
付き合いたてのときは色々と気遣ってくれて、一緒に楽しい時間も過ごした。
でも、酔っ払いの赤い目をした今のカイトには、危険な雰囲気が漂っている。
カイトならふたりきりでも平気だと思ったけど、それは判断ミスだったのか……。
ドクドクと心臓が嫌な音を立てる中、酒臭い息が顔にかかる。
ハッキリと危険を感じる至近距離で、カイトは取引を持ちかけてきた。
「あいつにお前の正体はバラさないでやる。
その代わり、ヤラせろよ」
なんで……。
抱いたことのない女性を抱いてみたいという男心なら理解できるけど、私は元カノ。
私の体なんて知り尽くしているはずなのに、なぜ抱きたいと思うのか。
その要求に疑問と不快感を感じて顔を歪めたら、彼は更に距離を縮めてきて、数センチの距離で舌舐めずりした。