肉食系御曹司の餌食になりました

私より先に来ていたのは男性三人で、ピアノのコウジさんと、ドラムのシゲさん、コントラバスのジョーさん。

三人共五十代のおじさんで、ジャズ歴の長い安定した演奏家だ。


「おはようございます」と挨拶すると、シゲさんが「アンちゃん、久しぶりだな〜」と、目尻に皺を寄せて答えてくれた。

そういえば、シゲさんと共演するのは三ヶ月振りになるのか。

ここにいる人達は他の店でも演奏するし、これが本業ではなく、他に仕事を抱えている。

この店に登録しているメンバーは常時三十名ほどで、その都度組み合わせが変わるのだ。

私も毎日この店にいる訳じゃなく、月に三、四回ほどの出演。

それくらいが本業に差し障りがなく、ステージに立つことを心から楽しめるちょうどいい頻度だと思っている。


「今日の歌い手さんはアンちゃんだから、曲はコレとコレにしようか?」

「俺はこっちがいいな。
マスターも喜ぶだろうし」


そんなふうに男性達が曲選びをしている間、私は部屋の隅にある簡易更衣室でステージ衣装に着替える。

< 9 / 256 >

この作品をシェア

pagetop