肉食系御曹司の餌食になりました
私より先に来ていたのは男性三人で、ピアノのコウジさんと、ドラムのシゲさん、コントラバスのジョーさん。
三人共五十代のおじさんで、ジャズ歴の長い安定した演奏家だ。
「おはようございます」と挨拶すると、シゲさんが「アンちゃん、久しぶりだな〜」と、目尻に皺を寄せて答えてくれた。
そういえば、シゲさんと共演するのは三ヶ月振りになるのか。
ここにいる人達は他の店でも演奏するし、これが本業ではなく、他に仕事を抱えている。
この店に登録しているメンバーは常時三十名ほどで、その都度組み合わせが変わるのだ。
私も毎日この店にいる訳じゃなく、月に三、四回ほどの出演。
それくらいが本業に差し障りがなく、ステージに立つことを心から楽しめるちょうどいい頻度だと思っている。
「今日の歌い手さんはアンちゃんだから、曲はコレとコレにしようか?」
「俺はこっちがいいな。
マスターも喜ぶだろうし」
そんなふうに男性達が曲選びをしている間、私は部屋の隅にある簡易更衣室でステージ衣装に着替える。