肉食系御曹司の餌食になりました
抱きしめられているので後ろの様子は見えないが、どうやらカイトは私より早く驚きから回復したようで、舌打ちの後に支社長に文句を言う。
「なんだ、あんたかよ。びびったじゃねーか」
「私も焦りました。アンが襲われている予感がして。それは概ね当たっていたようですが」
見えなくても、男性ふたりが睨み合っているような険悪な空気を肌に感じる。
支社長のお陰でカイトに乱暴されずに済んだけど、『助かった』とホッとできない。
酔っ払いの上に不機嫌なカイトが、今ここで私の正体をバラすのではないかと不安が押し寄せていた。
焦りから手が震えそうになり、思わず支社長のスーツ生地を握りしめる。
すると背中を撫でられ、「大丈夫ですよ」という優しい言葉が耳をくすぐった。
違うのに。カイトに怯えているのではなく、秘密がバレることを恐れているのに……。
後ろで煙草の箱を取り出す音がして、カチッとライターが点火される音もした。
「あんた、アンに惚れてんの?
それとも、遊び?」
「遊びのつもりはないとだけ答えましょう。
まだ彼女に伝えていないというのに、なぜ先に君に言わないといけないのでしょうか」
「ふーん。一応、マジなんだ」