肉食系御曹司の餌食になりました
自分の心音が耳元に聞こえるほど、緊張している私。
支社長の言葉に頬を染めることも、思わせ振りなことをと非難する余裕もなく、ただバラさないでと、それだけを願っていた。
「マジだとしても、やめといた方がいいよ。
こいつは、あんたのーー」
ああ、もう駄目だと諦めそうになったとき、一年前までよく嗅いでいたカイトの煙草の匂いが希望を残してくれた。
あの頃はカイトが好きだったから、この匂いも好きだった。
付き合っていた頃のように私に情けをかけてくれないかと、支社長の腕の中で体を捻り、縋る目を向けた。
「カイト……」
ニヤリと口の端を吊り上げていたカイトは、私と視線が合うと急にふてくされた顔になる。
秘密を漏らそうとしていた口も閉ざして、無言の中で私と見つめ合った。
「カイト……」
切実な思いを込めてもう一度呼びかけると、目を逸らした彼は、煙草の煙を天井に向けて吐き出す。
「分かったよ」
吐き捨てるようにそう言って、そのまま私と支社長の横をすり抜け、ドアを開ける彼。
出て行くときに「惚れた弱みか……」という独り言が小さく聞こえた。