肉食系御曹司の餌食になりました
カウンターに両肘をついて頭を抱えていたら、隣の椅子に支社長が座る気配がした。
「亜弓さん」
「はい……えっ!?」
考えの中に沈んでいたせいでうっかり返事をしてしまい、焦りと驚きの中で隣の彼に振り向いた。
すると支社長は、人当りのよい笑みを浮かべて言い直す。
「おっと失礼、アン。
初来店の日にも言ったことですが、知り合いに本当によく似ているもので、つい呼び間違えてしまいました」
「そ、そうなんですか」
驚かさないでよ……。
やっと緊張から解き放たれたところだったのに、心臓が口から飛び出すかと思ったじゃない。
仕返しのつもりで「女性の名前を間違えるのはマイナスポイントですよ」と嫌味を言いながらも、跳ね上がった心拍を宥めようと自然と胸に手がいった。
支社長はカウンターに左腕を置き、体は私に向けている。
私の反撃を大人の笑みを浮かべて受け止め、「そうですね。名前を間違えるようでは評価を上げて頂けませんね」と言った後、視線を私の全身に流した。
「ところで、私は間に合ったのでしょうか?
見たところ、ご無事なようですが、彼になにもされていませんよね?」
「あ……はい。大丈夫です。助けて下さってありがとうございました」