肉食系御曹司の餌食になりました

カイトに襲われる以上に焦りを感じたけれど、一応、助けられたことは事実なので頭を下げた。

なにもされていないわけじゃなく、望まないキスをされたことは、話すべきではないと判断する。

しかし、不快なキスだったと思い返したことで無意識に手の甲で唇を拭ってしまう。

すると支社長が口元の笑みをスッと消して、目幅を狭めた。


「キスされたんですか?」

「え、違いーー」

「されたんですね。
あなたが今夜眠りにつく際、思い出すのが彼とのキスなのは許せません。上書きさせて下さい」


言葉遣いは丁寧でも、嫉妬心剥き出しの発言に、私の心臓はまた忙しくさせられる。

椅子から下りて私との距離をゼロにした彼は、左手をカウンターに突き、右手で私の顎を摘むと、端正な顔を斜めに近づけた。

目を見開く私は、その胸元を慌てて押して抵抗する。


「支……麻宮さん、待って下さい。
こんな攻め方は、ちょっと強引すぎて……」


そう言うと、唇の距離数センチのところで彼は動きを止め、すんなりと離れて元の椅子に座ってくれた。

拍子抜けするほどに素直な対応で、逆に戸惑っていたら、なにかを考えるような顔を見せる彼は、頷いてから口を開いた。


「確かに強引で、これでは彼と同類になってしまいますね。
分かりました。私から攻めるのはやめましょう。その代わり、あなたからキスしてもらえますか? 姫を助けたナイトにご褒美を」


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