肉食系御曹司の餌食になりました
お礼ならキスじゃなく、例えばリクエスト曲を歌うとか、次回来店時にお酒をご馳走するとか、他に方法があるはず。
そう思いながらも、コクリと唾を飲み込んだ。
支社長の少し薄めで色気のある唇を見つめると、ビルの隙間で交わした甘美なキスの記憶が蘇り、あの快楽を忘れられない脳が、悪魔のように私に囁く。
『もう一度、気持ちよくなってみない?』
支社長は男性にしては長い睫毛を伏せて、唇を薄く開き、私のキスを座ったまま待っている。
あの美味しいキスを、もう一度。
危険を冒して彼の遊び相手になるつもりはないけど、もう一度だけ、キスくらいなら……。
椅子から下りた私は、吸い寄せられるように半歩前に進み出て、彼の肩に両手をかける。
背徳感はストッパーにはならずに、私の欲を後押しし、唇を重ねてしまった。
彼の唇の感触をゆっくりと味わってから、誘われるように半分開いた唇の中へ舌先を潜り込ませる。
やっぱり、甘くて美味しい……。
自分を止められなくて怖いほどに、彼とのキスは中毒性がある。