サヨナラの行方



声だって出ない。

イヤ、まともに息が出来ているのかさえ怪しい。

信じたくはない。

だけど、さっきの子は常務の近くで仕事をしている。

だから、本当のことなのだろう。

だったら、結婚するなんて聞きたくなかった。


これで、私の全てがなくなってしまった。

失ってしまった。

今さら手に入るなんて思っていない。

そんな愚かなことは思わない。

結婚は出世するために、上司の娘とすると聞いていたから。

だけど、まだ先の話しだと思っていた。

そもそも、自分の力で課長まで上がった人だから、今さら上司の娘の力が必要だろうかと。

でもそれは、ただ単に私の勝手な想いだったのだ。

願望だったのかもしれない。


聞いてしまった私は実際、黙って受け入れられない。

笑顔で祝福なんて出来ない。


結局は、欲しかったんだ。

もう1度、元に戻りたかったんだ。

2年前の幸せだった頃に……。




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