サヨナラの行方



何か言いにくそうにしている。

一体、なんだろう。



「……あ、忙しいとは思いますが、たまには亜耶乃にも構って下さいね。亜耶乃は、和泉くんが好きですから」



思い付いたように、そんなことを言われる。

さっきの電話ではああ言っていたけど、コレが父親の本音なのだろうな。

ただ、以前はもう少し強く言われていたような気がするけど、言い方が柔らかい。

イヤ、申し訳なさそうと言うべきか。


俺はそれについて、はっきりと返事は出来なかった。

正直、相手はしたくなかったから。

ただ、返事をしなくても、常務はそれ以上何も言わなかった。



あの日以来、不倫について話しはない。

それどころか、社長も常務も俺を咎める訳じゃない。

その話しに、触れようとさえしない。

直接はっきりと言葉にしなくても、彼女の方は小声で言ったりするのに。

何もないのは、逆に怖い気もした。




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