全力片思い
胸が痛くて苦しくて張り裂けそうで、唇を噛みしめてしまったとき。

「行こうか」

「――え? あっ! 笹沼くん!?」


急に私の手を強く握り締めると、大股で歩き出した。

引きずられる私はただ、ついていくだけで精一杯。

だけどすぐに気づいた。

繋がれた笹沼くんの手が、少しだけ震えていることに――。


そう、だよね。笹沼くんだって辛いよね。

好きな子が怪我をしちゃって、目の前で柳瀬が抱えて助けたのだから。


笹沼くんの気持ちを考えると、ますます胸は痛むばかりだった。

「俺たちだけでも、先に進んでおこう」

「……うん」


発せられたのは力ない声。

返事をしたものの、気になって仕方なかった。

笹沼くんは今、どんな思いでいるのだろう。

どんな顔をしているのだろうって。
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