全力片思い
笹沼くんは不思議な人だ。

伝えるか伝えないかハッキリしろって言うから、伝えないって決めたのに。


それを知っているくせに、こうして「これでよかったのか?」なんて聞いてくるのだから。

でも笹沼くんがどんな人なのか、少しだけ知れた今なら分かるよ。


笹沼くんは優しい人だから。

だから聞いてくれているんでしょ?

自分だって辛いはず。柳瀬が告白するんだもの。

きっと光莉も柳瀬の気持ちに応えるはずだから。


「ごめんね、柳瀬の背中を押しちゃって。……笹沼くんも光莉に告白しようとしていたのに」

柳瀬の背中を押したことに後悔はない。

けれど笹沼くんの気持ちを考えると、申し訳なくなってしまった。


「どうして皆森さんが謝るわけ? ……自分だって辛いくせに無理しすぎ」

「――え」


一瞬のことだった。

掴まれていた腕を強引に引かれると、あっという間に笹沼くんに抱きしめられた。


固い胸板。鼓動を奏でる心臓音。ほんのり香る柔軟剤の匂い。


なにが起きているのか理解できていない私に、それらすべてが訴えかけてくる。

私は今、笹沼くんに抱きしめられているのだと。
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