全力片思い
顔を上げれば鋭い眼差しが向けられていて怯んでしまう。

そんな私にカレは耳を疑うことを言い出した。


「どうしてすぐ幸に、タオルを掛けたのは自分だって言わなかったわけ?」

「…………どう、してそれを……?」


反応が鈍くなる。
声が震えてしまう。


それもそのはず。
どうしてタオルのことを、笹沼くんが知っているの?


当人である柳瀬は光莉が掛けてくれたと信じ込んでいるというのに、どうして笹沼くんは私だって知っているの?


瞬きすることも忘れ、カレをガン見してしまう。

笹沼くんは私から視線を逸らさず、様子を窺うようにジッと見つめていた。


「そんなの答えは簡単だろ? その場面を見ていたからに決まってるじゃん」

見ていたって……嘘でしょ?

信じられなくて目を見開いてしまう。


「見るつもりはなかった。……偶然俺もあの場にいたんだ」

言い聞かせるように話す笹沼くん。

カレの瞳は嘘をついているように見えない。
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