全力片思い
「夏休みが明けたら、お礼を言いなさい。柳瀬くん、皆森さんのことを心配していたから」

「あっ、はい」


心配……してくれていたんだ。

私がカレを知らないように、カレも私のことなんて知らないはず。

それなのに、心配してくれていたなんて――。


トクンと胸が鳴り、咄嗟に手で胸元を押さえてしまった。

なんだろう、これ。
胸の中がドキドキしたり、嬉しいと思ったり、色々な感情に覆われていく。


それから大橋先生が運転する車で自宅に送り届けてもらった。

「ゆっくり休め」の言いつけ通り、すぐに着替えてベッドの中に入るものの、考えてしまうのは“柳瀬くん”のことばかり。


「どんな人なんだろ、柳瀬くんって」

寝返りを打ったあと、瞼を閉じ想像してみるけれど出来ない。

顔はうろ覚えだし、どんな人かも分からないし。

どうして柳瀬くんは私のことを助けてくれたのかな? 心配してくれたのかな?

私たち、友達でもクラスメイトでもないのに――。


長い夏休み期間中、気づけば柳瀬くんのことばかり考えてしまっていた。
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