aeRial lovErs
基地から車で三十分ほど行った所に詩流風と云う名前の小さな居酒屋が有る。

今晩は、詩流風で菱沼と飯山という名前の若い整備士の三人で飲んでいる。

「飯山君すまないな、足に使ってしまって。」

「いえ、とんでもない。」

菱沼が恐縮する飯山の背中をバンと叩く。

「今日は俺と三島のおごりだ。」

「ありがとうございます。」

そう云う事で、私の前にはビール、菱沼の前には焼酎、飯山の前にはコーラが置かれている。

「しかしなんだな、あの新人いい動きするな。」

菱沼は高崎がいたくお気に入りの様子だ。

勿論、戦闘機の部品としてだ。

これで私への営業活動が減れば言う事無いのだが。

「あの歳で凄いですよね。ああ、有り難う。」

飯山は、相づちを打ちながら店員から料理を受け取る。

皿には鳥の唐揚げにキャベツの千切りが乗っている。

「まあ、これで戦闘屋も安泰だろう。」

私の呟きに菱沼が敏感に反応する。

「お前が帰ればなお良いな。あんな真っ直ぐかっ飛ぶだけのヤツに乗せておくには勿体ない。」

「またその話か、私はもう戦闘機には乗らないと言ってるだろう。」

うんざりと私は言う。

「光ちゃんも、お前のそんな姿見たく無いと思うぞ。」

光とは、私の亡くした恋人の名だ。

「もうその話しは止めよう。」

飯山が興味はあるが、聞くに聞けない様子だ。

「私が戦闘機を降りたのはその件とは関係無い。」

「なら、新しい女でも作れ。」

「菱沼、もう酔ったのか?」

「いや、そうじゃなくてだな・・・分かった、この話は、止めにしよう。」

菱沼も私の性格を理解しているのかこれ以上この話題には触れなかった。

しかし私は、詩流風に居る間ずっと亡くした恋人と降りた戦闘機の事について考ていた。

奪われた想いと自ら捨てた栄光。

私は・・・本当は、菱沼の言う通り過去の幻影に捕らわれているのかも知れない。
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