aeRial lovErs
「こちら鴎(カモメ)、只今、規定点通過、異常無し。予定通り帰還ルートに入る。」

無線で定期報告を済ませた私は、操縦桿を倒して緩やかに進路を反転させる。

私が戦闘機を降りて、もう3年の月日が流れようとしていた。

戦闘機から偵察機に乗り換えた切っ掛けは、あまり語りたくない。

まあ、おいおい話す事にはなるだろうけど。

言い訳をする訳ではないが、左遷されたのでは無い。

自ら申し出たのだ。

転属願を出した時も、一応上司に引き留めてもらえた。

戦闘機を駆る腕も自信が有った。

今でも、簡単に後ろを取られる様なへまは、しない自負は有る。

ただ、私の中の、技術や体力で無い何かが、戦闘機に乗る事を拒んでいるのだ。

武骨に見えても、戦闘機乗りと云う奴は、以外と繊細なのだ。

勿論、今の任務が気安い物だと言っているのでは無い。

今は、この任務も誇りを持って行っている。いや、思おうとしている、が正直な所かも知れない。

自分から転属を希望しておいて、我ながら未練がましいものだと思う。

機体の方は、すこぶる快調だ。

後、数分でもすれば、危険空域を抜けて、安全に飛行する事が出来る。

と言っても、機動性を重視した、小型と言えどガチガチにレーダー類を搭載している最新鋭偵察機に乗っているのだ。

私に気付かれずに、この機体を射程に入れる事が出来る敵は、そう居ないはずだ。

改めて計器を確認した私は、受信機の一つが反応しているのに気付く。

多分、ラジオだろうと思いつつも私は、何となくスイッチを切り替え、反応した受信機にチャンネルを合わせた。

聞こえて来たのは、雑音混じりの女性の歌声だ。

『貴方を思い見上げる空は、まるで過去を映す鏡ね

悲しく澄んで、二人の日々を

私の胸に突き刺しつづける』

私は、少しの間、聞き入っていたが、安全空域に到達したので、定期連絡の為に無線機のチャンネルを操作した。

お決まりの報告をしながら、私は、着陸の準備を進めた。
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