aeRial lovErs
格納庫の片隅に有る休憩小屋の二階は、私のお気に入りの場所だ。

飛行機乗りになった位だから飛行機を眺めるのは、勿論好きだが、ただこの天井の高い空間を前に、のんびりするのが好きなのだ。

今、窓に一番近い場所には、私の乗る機体GF-23Cが翼を休めている。

純白の塗装から付いたコードネームは゛遠見の鴎゛(とおみのかもめ)で、略して単に鴎と呼んだりしている。

飛行機乗りの中には、機体に、落書きをしたがる連中もいるが私は、そういった事が嫌いなので、いまだシンプルな、塗装のままにしてある。

機能から滲み出る存在感だけで充分だ。

私は、ガラスごしに格納庫に並ぶ、機体を眺めながらタバコに火を点けた。

その時、階段を誰かが上がって来る音がした。

「三島、タバコ。」

階段からヒョツコリ顔を出したのは、整備士の菱沼だ。

私が投げたタバコケースをキャッチした菱沼は、タバコとライターを取出し美味そうに一口吸う。

「調子は、どうよ?」

菱沼が、窓の外側の鴎をあごでしゃくり示す。

「無線が、民放のラジオを拾ったぞ。」

菱沼は、にやりと笑う

「サービスだよ。」

「それは余計なお世話だか後は悪く無い。」

「当たり前、誰が整備してると思ってる。」

「いや、私の操縦がスムーズなんだよ。」

「ほざけ。」

憮然とした表情で黙り始めた菱沼に、私は先手を打つ。

「戦闘機には、乗らないぞ。」

格納庫の奥に向けられた菱沼の視線は、先週、導入された新型戦闘機に注がれていたのだ。

「そりゃGFも悪く無い機体だ、だか今回の新型は・・・」

「お前が、気に入る機体が来るたびに私を戦闘機に乗せようとするのは、止めろ。」

菱沼の営業活動が長引く前に、ストップをかける。

「だがな、性能も引き出さずにヘロヘロ飛ばされた挙げ句に、機体のポテンシャルがどうとか、整備がこうとか言われてみろ。」

菱沼は、口は悪いが仕事には、真摯で、何より飛行機が好きなのだ。
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