たったひとつの恋をください
「……ごめんなさい」
情けなくて、じわりと涙が浮かびそうになる。
「別に、気にしなくていいって。俺なんて探してる途中で金魚すくいしてたしね」
蓮が私の前にしゃがみ込んで、ホラ、と透明のビニール袋を持ち上げる。
「……金魚だ」
透明なビニールの小さな水の中を、ふよふよと泳ぎまわる二匹の紅い金魚。ふっくらと健康そうな身体で、花びらみたいな尻尾を左右に揺らせて。
可愛い。私がそう言う前に。
「可愛いっしょ。今日の七瀬とおそろい」
蓮が恥ずかしげもなくそんなことを言うから、私の胸が、不覚にもどくんと高鳴る。
ーー可愛い。
わかってる。浴衣と金魚が可愛いだけで、私に言ったんじゃないってことくらい。
なのに、他の人が言うのと全然違う言葉みたいに聞こえるのは……。
「二人とも心配してるし、そろそろ戻るか」
蓮が言って、大事なことを思い出す。
「そうだ。鼻緒、切れちゃったんだ…」
「ああ、それくらいならたぶん、琴里が直せると思うよ」
「そ、そっか。よかった」
「行こう。歩ける?」
「うん……」
すぐに下駄が脱げちゃうから、かなり歩きづらいけど……。