たったひとつの恋をください
第五章 「踏み出す勇気」
「おはよー」
「久しぶりー。うわ、焼けたねえ」
校門をくぐると、あちこちからそんな会話が聞こえてくる。
九月。新学期が始まった。
静かだった夏休みの校舎から様変わりして、賑やかな風景はどうしたって私の緊張を煽ってくる。
「夏休み中にも来てたし、慣れたもんだろ」
教室に向かいながら、担任の藤本先生が笑いながらそう言うけれど。
「……そうでもなさそうだな」
少し遅れてついていく私を見て、苦笑した。
「……はい」
転校なんて、何度もしてる。学校が変わるくらいで、もうそんなに緊張したり不安になったりはしない。
そうーーいつもなら。
なのに今日は、自分でもよくわからないくらい、ガチガチに緊張していた。
朝から何度も忘れ物したり、見慣れたはずの校舎で迷子になったり。
新しい場所でうまくやっていけるだろうかって、そんなことばっかり気にしてしまって。
そうしている間に、教室に着いてしまった。
『二年五組』。
夏休み中、何度も通った教室。だけど今は、初めて足を踏み入れる場所みたいに、私を威圧するだけだった。