たったひとつの恋をください
キーンコーンと響き渡る鐘の音を聴きながら、短く深呼吸して、いざドアの中へ。
ーー入ろうとしたとき。後ろから、バタバタと慌てて走ってくる足音が。
「あぶねー、ギリギリセーフ」
「おい須藤。ギリギリアウトだぞ」
「えー?初日ぐらい多めに見てよ」
「たく、初日だからこそ気をしっかり引き締めてだなあ……」
呆れてため息をつく藤本先生の横で。
私はちょっとだけ久しぶりなその姿に、どくんと大きく胸が鳴るのを感じた。
半袖の白いシャツに、モスグリーンのチェックのズボン。
ーー制服姿、初めて見た。
「七瀬、おはよ」
「お、おはよっ」
お祭り以来、顔を合わせるのは今日が初めてで。
……どうしよう。まともに顔が見られない。
「おお、お前ら、もう顔見知りか。仲良くしてくれよ」
藤本先生ははっはっと高らかに笑いながら、ドアを開け教室に入っていく。
私も行かなきゃ。でも、足が進まない。