たったひとつの恋をください




キーンコーンと響き渡る鐘の音を聴きながら、短く深呼吸して、いざドアの中へ。


ーー入ろうとしたとき。後ろから、バタバタと慌てて走ってくる足音が。


「あぶねー、ギリギリセーフ」


「おい須藤。ギリギリアウトだぞ」


「えー?初日ぐらい多めに見てよ」


「たく、初日だからこそ気をしっかり引き締めてだなあ……」


呆れてため息をつく藤本先生の横で。


私はちょっとだけ久しぶりなその姿に、どくんと大きく胸が鳴るのを感じた。


半袖の白いシャツに、モスグリーンのチェックのズボン。


ーー制服姿、初めて見た。


「七瀬、おはよ」


「お、おはよっ」


お祭り以来、顔を合わせるのは今日が初めてで。


……どうしよう。まともに顔が見られない。


「おお、お前ら、もう顔見知りか。仲良くしてくれよ」


藤本先生ははっはっと高らかに笑いながら、ドアを開け教室に入っていく。


私も行かなきゃ。でも、足が進まない。




< 117 / 377 >

この作品をシェア

pagetop