たったひとつの恋をください




お母さんは厳しいどころか、私のやることにほとんど口を出さないし、勉強のことですらほとんど何も言ってこない。


きっと自分のことで忙しすぎて、私のことに気を配ってる余裕なんてないんだろう。


「買えばいいのに」


「買わない。買ったって蓮には教えないし」


……ああ、私、また可愛くないこと言ってる。


自分で言っといて情けなくなりながら、でも気づけば勝手に熱くなってる顔を見られたくなくて、ふいと顔を背ける。


ダメだなあ、っていつも思う。


学校が始まってもう一ヶ月も経つのに、全然この状況に慣れてなくて。


ーー隣に君がいることに。


ふと隣を見れば君がいて、笑いかけられればそれだけでその日一日嬉しくなって。


早く慣れなきゃと思いつつ、だけどいつだって無意識に意識してしまう。どこにいたって、君の姿を目で追ってしまう。


鐘が鳴って、ホッとした。前だけ見てればいい授業中が一番楽だなって気づいたのは、つい最近のことだ。



< 141 / 377 >

この作品をシェア

pagetop