たったひとつの恋をください
「ケータイ、お願いしてみようかなあ」
帰り道。ふと、独り言みたいにつぶやいてみた。
隣を歩く琴里が「えっ」と目を丸くする。
「ほんとに?いらないって言ってたのに。どういう心境の変化?」
覗き込まれて、少し、ドキッとした。
「い、いや、特に理由はないんだけど。みんな持ってるし、便利かなあって」
別に、蓮が言ったからとか、あの子たちに言われたからでもなくて。
ただなんとなく、前みたいに頑なに意地を張る理由は、もうないかなって思ったから。
「うんうん、便利だよー。お祭りのときだって、ナナちゃんはぐれてみんなで探したしねー」
大変だったんだから、とちょっと意地悪そうに言う琴里に、私は肩をすくめる。
「あのときはすいませんでした……」
「あはは、別にいいよお。じゃあこれからは、いつでも連絡できるね!」
ケータイだけで繋がるような関係なんていらない。ずっと、そう思っていた。
だけど、そうじゃないんだって、今の私は知ってるから。
誰かと少しでも近づきたいっていう気持ち、今ならわかるから。