たったひとつの恋をください
家に帰って、パチンと玄関の灯りをつける。
リビングのドアを開けると、いつもの見慣れた光景。
質素な木製のテーブルの上に、ラップをかけられたお皿。
それとーー、その横に添えられた一枚のメモ。
『昼に帰ったから、カレーを作っといたよ。レンジでチンして食べてね。 母』
そんなの言われなくたってわかってるのになって思いながら、そっと苦笑する。
カレーには、大きめに切った肉や野菜がゴロゴロ入ってて、全部形が違って、適当で、でも味がしみてて。
料理なんてほとんどしないお母さんだけど、たまに時間があるときはこうやって、思いつきみたいにカレーを作る。
親らしいんだからしくないんだか、よくわからない。ゆっくり話すことなんて滅多にないから、お母さんが考えてることだって、私にはさっぱりだ。
ゆっくり話ができたら、もう少しわかるのかな。
一瞬、そんなことを考えてみたけれど、やっぱり無理な気がした。
お母さんと私は、性格も考え方も、全部が違いすぎるから。