たったひとつの恋をください
プルルルル、とそのとき、ドアの横で電話が鳴った。
こんな朝から誰だろうと思いながら電話を取ると。
『もしもし、七瀬?』
お母さんだった。
「お母さん。どうしたの?忘れ物?」
『違うわよ。まあ、言い忘れたことっていうのはあってるけど。ケータイのことよ』
あっ、と思った。
私の言葉も待たずに、お母さんはせっかちに続ける。
『ケータイね、いいわよ、全然。むしろ他の子はみんな持ってるんでしょう。七瀬はいいのかしらって、前から思ってたから』
「そうなの?」
そんなこと、一言も聞いてない。だったらもっと早くそう言ってくれればよかったのに。
『七瀬。あんたはね、子どものくせに色々気を遣いすぎなのよ。お母さんは頑張って働いてるんだから、ケータイ代くらい気にしないの。普段色々してあげれない分、あんたに我慢なんてさせたくないのよ、私は』
「……なんで、いきなりそんなこと言うの?」
お母さんの突然の告白にびっくりしながら、でも胸の中がじんと熱くなるのを感じていた。
電話の向こうで、お母さんがふっと笑うのがわかった。
「なんでだろうね。なんとなく、今言っときたかったのよ」
いつも大事なことさえちゃんと言わないくせに、いったいどういう心境の変化だろう。