たったひとつの恋をください
「楽しみだねえ、文化祭」
休み時間。次の授業のため家庭科室に向かいながら、琴里がうきうきと声を弾ませる。
「うん。ドーナツとか気合い入るよね」
「あはは。ナナちゃん、何気にスイーツ好きだよね」
「食べるの専門だけどね」
料理もお菓子も何だってお手のものな琴里と違って、私はといえば、目玉焼きですら失敗するほどの致命的な腕前だ。
「でも今日の調理実習、パンケーキだよ?」
「そうなんだよね……」
はあ、とため息を落とす。
調理実習なんてなくていいのにって、本気で思う。人前で料理の腕を披露するなんて、苦手な私には嫌がらせ以外の何でもない。