たったひとつの恋をください
「……あのね。期待させて悪いけど、ほんとに違うんだ」
私が苦笑しながら言うと、
「そっかあ」
琴里はつまらなさそうに口を尖らせながら、でもすぐにまた笑顔になる。
「つい妄想が先走っちゃって。だけどもし好きな人ができたら、そのときは絶対教えてね!」
「うん。もちろん、教えるよ」
ーー本当のことなんて。言えるはずないのに。
大切なこの子を悲しませたくなんてないから。
だから、私はまた、小さな嘘をつく。それは雪みたいに降り積もって、どんどん大きな塊になっていく。
いっそ全部埋め尽くして、真っ白に染められればいいのに。
辛い気持ちも苦しさも、全部、綺麗さっぱり消し去ってしまえたらって。
だけどそんなのできないんだってことは、自分が一番、よくわかってるんだ。
どんなに消したくても隠したくても、消すことなんてできない気持ちがあるって、私はもう、知ってしまったから。