たったひとつの恋をください




「何も書いてない黒板に、白いチョークで願い事を書くの。それで誰にも見られずに消したら、願い事が叶う。簡単でしょ?」


「へえー。今度それ、やってみようかな」


「でもさ、そういうときに限って、うっかり誰かに見られちゃったりするんだよねえ」


「放課後とか危険だよね」


「じゃあ逆に早朝とか?」


「試した人とかいるのかな?」


黒板に願い事を書いて消す。どこかで聞いたような、どこにでもあるようなおまじないの話だった。


きっと前の私なら、バカみたいって思ったんだろう。そんなので人の気持ちが簡単に変わるわけないじゃん、って。


だけど今なら、そういうものに頼りたくなる気持ちが、少しだけわかってしまった。


それだけ、みんなにも叶えたい願いがあるんだ。それを叶えるために、ものすごく勇気がいるときだってある。


たとえ適当な占いだって、根拠のないおまじないだって、なんだっていい。


ただ、大丈夫だよって、背中をぽんと押してくれる何かが、必要なんだ。



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