たったひとつの恋をください
……もう、帰ろう。
踵を返して、すぐに立ちすくむ。
「え……っ?」
ーーなんで?
夕焼けの教室。遠くの声。黒板の横の扉の外に、その人はいた。
「ナナちゃん?」
一瞬、空耳かと思った。見間違いかと思った。だってその人が、ここにいるはずないから。
振り向いて、目が合った。不思議そうに私を見る目。
ーーなんで、ここにいるの?
私が何かを言うより先に。
「ナナちゃん、まだ残ってたんだ。何してたの?」
琴里は笑いながら少し小首を傾げて、そう言った。