たったひとつの恋をください




呆気にとられる私とは裏腹に、お母さんは「そうよー」なんて、楽しそうに答える。


「今日って、なんかあったっけ……?」


誕生日はとっくに過ぎてるし。もしかして臨時収入が入ったとか?


「そんな緊張しなくても大丈夫よ。見た目は豪華だけど、別に普通のお店だから」


お母さんはそう言うけれど、扉を開けて入ってみれば、やっぱり制服で来るにはちょっと浮いている気がした。


上品な店員さんに案内されて席についてからも、全然落ち着かなくて。


なのにお母さんといえば、メニューを見ながら、「ここ、麻婆豆腐が有名なんだって」とか「小籠包もおいしそうねえ」と、まるでお構いなし。


どう考えたって、おかしいのは明らかなのに。




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