たったひとつの恋をください
男の人が、私のほうを向いて会釈をした。
「七瀬ちゃん、はじめまして。僕はお母さんの同僚の、植村誠っていいます」
落ち着いていて、物腰の柔らかい人、というのが、第一印象だった。
白髪の混じった灰色の髪。目尻には数本皺が刻まれていて、お母さんより少し上に見えた。
ウエムラさん。と私は心の中で一度つぶやいてみる。
彼がどんな人なのか。お母さんにとって、私にとって、どんな関係の人なのか。
普段は鈍い私にだって、さすがに察しがついた。
お母さんは、ふふっと嬉しそうに目を細めながらーー、
「七瀬。私ね、植村さんと結婚しようと思ってるの」
はっきりと、そう言った。