たったひとつの恋をください




「心配したのよ。もう帰ってこないんじゃないかって……」


「そんなわけないじゃん。帰ってくるよ。ここが私の家なんだから」


「そうよね。おかえり、七瀬」


お母さんの肩が、小さく震えていた。こんなお母さん、初めて見た。


強くて、いつだって迷いがなくて。不安になることなんてないんだって、思ってた。


バカだな、そんなはずないのに。


ちゃんと見ていなかったのは、私だって同じだった。



「うん。ただいま」



私もまた泣きそうになりながら、そう答えた。




< 266 / 377 >

この作品をシェア

pagetop