たったひとつの恋をください
新築の、まだ真新しいアパート。そう言えば隣に住んでいるのがどんな人なのかも全然知らないなって、かなり今さらなことを思った。
淋しいな、と思う。不思議だな、とも。
だって私は、どこだってよかったはずだ。どうせいつかはここも離れるんだから。住むところに愛着なんて、最初から持たないほうがいいって。
なのに名残惜しいと思ってしまうのは、やっぱり君のせい。この街に残りたいって、未練なんて感じてしまうのは。
お母さんの震えが、ふいに止まったのがわかった。
すっと肩が離れて、決心がついたように私をまっすぐに見据える。
「七瀬。話があるの。聞いてくれる?」
私はこくりと、深く頷いた。
私たちは、ずっと話し合いを避けていた。どう接していいか、よくわからなかった。たぶん、お互いに。
だけど、いつまでもそれじゃダメだから。
ちゃんと向き合わないと。私たちが、前に進むために。