たったひとつの恋をください




「お父さんがいなくなったときにね、思ったの。七瀬には私しかいないんだから、私が守らなきゃって。嫌な思いを仕事をさせたくなくて頑張ってたけど、結局空回りしちゃってたんだね」


だから再婚を少し焦っていたのだと、お母さんは言った。


一緒に住めば、少しは生活に余裕ができる。仕事だって、今までみたいに遅くまでしなくてもよくなる。


そうすれば一緒に過ごす時間が増えるから。


「植村さんとはちゃんとお付き合いしたいと思ってるのよ。でも、やっぱりちょっと急ぎすぎてたみたい」


照れ臭そうに、そう付け足して笑うお母さんに、私もつられて笑った。


仕事ばっかりだったお母さんが、ちゃんと自分の道を歩んでいたこと。


それに私のこともちゃんと考えてくれていたんだって知ったら、なんだか嬉しくて。



< 269 / 377 >

この作品をシェア

pagetop