たったひとつの恋をください
ざわざわと騒がしい食堂で。私たちの話題も、自然と進路の話になった。
「じゃあナナちゃんは、東京に行くかもしれないんだ?」
パチンと割り箸を割りながら、琴里が目を丸くする。
「うん、大学はそうしようかなって。まだ全然決めてないんだけどね」
「えー、淋しいなあ。あたし的には行かないでほしいけど……あっ、でも東京は案内してほしいかも!」
そこから琴里の妄想が膨らんで、お台場で遊んで、新宿で買い物してと、色々計画を立て始めたから、「気が早いって」と私は笑った。
外が寒くなってきて、お昼ご飯を食堂で食べるようになったのは、まだ最近のことだった。
すっかり中庭が定位置みたいになってたけど、これはこれで高校生っぽくていいなあ、なんて。もうすぐ三年生になるのに今さらそんなことを思ってる。
思えば私はこの街に来るまで、学校生活を楽しむことなんて、ほとんどしてこなかったから。
色んなことが初めてで、新鮮で、だから毎日が嵐みたいに一瞬に思えた。