たったひとつの恋をください




土曜日なだけあって、映画館はたくさんの人で賑わっていた。


売店から漂うキャラメルポップコーンの匂いに、懐かしいなあって思う。


まだお母さんの仕事がそんなに忙しくなかった頃、二人でよく一緒に観に来たっけ。


確か、私の好きなアニメが多かった。お母さんだって自分の好きなものを観たかったはずなのに、いつも私ばっかりに合わせてくれて、だけどそれが当たり前なんだって思っていた幼い頃の私。


だけど大きくなってからはそんなこともなくなって、家で一人で暇つぶしに観るDVDのほうが当たり前になっていた。


なんだってよかった。一人ぼっちの淋しさを拭ってくれるものなら、なんだって。


何年ぶりだろう。


久しぶりの映画を、まさか好きな人と観に来るだなんて……


夢にも思っていなかった。






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