たったひとつの恋をください
ポップコーンを買うために並んでいたら、結構ギリギリの時間になってしまった。
すでに部屋は暗くなっていて、私たちが席に着くのを待っていたように、スクリーンにCMが映し出される。
「あれっ?意外と人少ないんだね」
あれだけ混んでいたら満席くらいかと思っていたのに、中に入ってみれば全然そんなことはなくて。
お客さんは、一列に一組か二組くらい。私たちの列には、他にいなかった。
「そんなにメジャーなやつでもないからな」
蓮はスクリーンから目を離さないまま言うけれど。近くに人がいてくれないと、緊張がちっとも収まってくれないから困る。
気持ちを少しでも紛らわそうとポップコーンに手を伸ばしてみても全然収まらなくて、
「食いすぎじゃね?」
と引かれる始末。
だけど話が進むにつれて、一旦その世界に入り込んでしまえば、そんな緊張は一気に吹き飛んだ。
内容は、ある館に閉じ込められていた怪物が目を覚まして、街を襲い出すというもの。
大画面で見ると予想以上にスリルがあって、ハラハラしっぱなしだった。
ときどき叫び出しそうになるのを、慌てて口を押さえて我慢する。そんな私を見て蓮がちょっと吹き出したりすると、大事なシーンなのに緊張感が一気に抜けたりして。
一人じゃない映画っていいなあ、ってふと思った。
隣に誰かがいて、楽しさや怖さが自然と伝わってきて。言葉を交わさなくたって、同じものを一緒に観てるってだけで、まるで会話しているみたい。