たったひとつの恋をください
同じような形をした家やアパートが並ぶ、静かな住宅街。まだ寝静まる時間には全然早いのに、ひとっこ一人見当たらない。
どこからか車のエンジン音や犬の鳴き声なんかが聞こえてくるけれど、そのどれも姿は見えなくて、ずっと遠くにあるように感じた。
そんな風に感じるのはきっと、ここがまだ慣れない場所だからなんだろうな、と思う。
数日前に引っ越してきたばかりで、馴染みのない景色は、どこを歩いていてもなんだかよそよそしく感じてしまう。
そんな中で聞こえた一つの音に、私は敏感に反応した。
近くはないけれど、そんなに遠くもない。タンッ、タンッ、とリズムよく響くそれは、ボールの弾む音だった。
じめっとした夜の空気にはあんまり似合わない、軽快な音。音の方向はすぐにわかった。
すぐそばの公園から、それは聞こえていた。
ーータンッ、タンッ。
私はつられるようにして、気づけば足を公園に向けていた。
危ないかもしれない、とは考えなかった。
ただ暇だった。ちょっと気になった。それだけの理由で、私はひょこっと顔を覗かせてみた。