たったひとつの恋をください





教室は、もう目と鼻の先だった。


見慣れた二年五組のプレートが、早く来いと手招きするように私を見下ろしている。


「…………」


足が、止まった。行かなくちゃってわかってるのに、体が言うことを聞いてくれない。


いっそ逃げ出したかった。辛い現実しか待っていないなら、わざわざそこに足を踏み入れることなんてしたくなかった。



だけどーー



だけど私にそんなことできるはずがないってことも、よくわかってる。


大切な人だから。だからこそ、辛くても向き合わなくちゃ。



< 304 / 377 >

この作品をシェア

pagetop