たったひとつの恋をください
ガラリと教室のドアを開けた。一番最初に視界に飛び込んできたのは、彼女の後ろ姿。
サラサラの長い栗色の髪が風になびく。
華奢な背中は儚げで、冷たい冬の空気に溶け込むようだった。
窓際の一番後ろ。そこは、いつも私たちが休み時間に喋っている場所。
開け放った窓から校庭を見下ろす彼女は、何を思っているんだろう。
そこには何もないはずなのに、少しだって目を逸らさずに、何か一つだけをじっと見つめてる。後ろ姿でだって、それがわかる。
きっと、体育館だ、と思った。
私たちが、何度も通った、思い出の。
あの中庭でお弁当を食べた夏はそんなに昔のことじゃないのに、なぜかずっと遠い記憶のように思える。