たったひとつの恋をください
「あは、ナナちゃん、そんな顔しないでよ」
まるで地上に降りたった天使みたいに、琴里は軽やかに両手を広げて、ぴょんと足を一歩前に出した。
きっと、今の私は、そんな彼女とは正反対の顔をしてる。上手に笑うことなんてできないし、言葉だって一文字も浮かんでこない。
「蓮から聞いたんだよね?私たちのこと」
琴里が言った。
私は重々しく頷く。
「うん、聞いたよ」
二人の過去も、絆も、抱えて隠した傷跡もーー。
「そっか」
琴里は薄く微笑んで、ここではないどこか遠くを眺めながら、短くそう答えた。