たったひとつの恋をください




ーーねえ蓮、危ないよ。


ーー平気だって。


それまでコンロなんて触ったこともなかった蓮は、いきなりガスを全開にしてしまった。


慌てた拍子にフライパンが床に落ちて、火はそばに置いてあったキッチンペーパーに燃え移った。



一瞬の出来事だった。火が勢いよく燃え盛り、その場はむせるような熱に包まれた。



ーー危ないっ!




燃え上がった炎は、とっさに蓮を庇った琴里にまで襲いかかった。


焦げ臭い匂い、充満する煙、悲鳴をあげて転げ回る琴里。


ーー琴里っ!?


何が起こったのかわからなかった。


どうすればいいのか。


けれど考えている暇なんてなかった。蓮は慌てて水をかけて火を消し、琴里の服を剥ぎ取った。


琴里の背中は信じられないほど腫れ上がり、血で真っ赤になっていた。


痛い痛いと泣きじゃくる琴里を抱えたまま、蓮はどうすればいいのか必死に頭を回転させた。


親はいない。自分でなんとかしなくては。


救急車を呼ばなきゃ、と思ったけれど、混乱してその番号が思い出せない。




< 309 / 377 >

この作品をシェア

pagetop