たったひとつの恋をください




廊下に出たところで、あっ、と彼女が立ち止まった。


今度は何かと身構えれば。


「まだ自己紹介してなかったね。あたし、羽川琴里。ことりって呼んでね♪」


と彼女は歌うような調子で言った。


「私は塩屋七瀬。よろしく」


私は、そんな風に愛想は振りまけない。


感じ悪く思われたっていい。無愛想な子、つまらない子。そう思ってくれれば、きっとこの子だってそのうち興味をなくすだろうし。


だけど琴里は、無愛想な態度なんて気にもしないで、ずっと喋り続けていた。


よくそんなに喋れるなあ、って思わず感心してしまうくらい。


このうだるような暑さのなか、琴里のまわりだけが、不思議なくらい涼しげだった。半袖から伸びる白くて細い腕には、汗の粒ひとつ見当たらない。


人形みたいな女の子だと思った。


私が転校生じゃなければ、同じクラスじゃなければ、きっと関わることもなかっただろう女の子。



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