たったひとつの恋をください
「ねえ、ナナちゃん」
琴里の少し落とした声が、静かな教室に響いた。
「あたしたちの関係は、歪んでるかもしれない。きっともう恋愛とは言えないんだろうし、理解なんてできないと思う」
でもね、と琴里は、私の目を見て続ける。
「それでも、蓮はあたしにとって、一番大切な男の子なの。昔から、今でもずっと、それは変わらない。あたしには蓮しかいないの。だから」
ーーあたしから、蓮を取らないで。
それは、琴里の必死の声だった。嘘のない、今までで一番、本当の気持ち。
だからこそ、心にずしんと重く響いた。
「あたしね、怖いの」
琴里の震える声が言う。
「今まで、ずっと蓮がそばにいたから。ずっと蓮は優しかったから。他の人となんてうまくいく気がしなくて。離れたらどうなるのかって、考えたら怖くて……」
私は立ち尽くしたまま、何も言えなかった。
大切な人と離れたくない。離れるのが怖い。
その気持ち、私は痛いほど知っていた。
だけど、私だけじゃなかった。
いつも笑顔だった琴里だって、本当はずっと、怖かったんだ。
怖くて仕方がなくて、だけど傷を見せないために、笑顔で隠していたんだ。