たったひとつの恋をください

「ーーナナちゃん、聞いてる？」


「へっ？」


一瞬、呼ばれたのが誰のことかわからなかった。


……ナナちゃん？


辺りを見まわしてみなくたって、たぶん私のことなんだろうってことはわかるけれど。


「あの、その呼び方……」


「えへ。ナナちゃんって呼びやすいし、可愛いかなと思って。……ごめん、嫌だった？」


うっ、と言葉に詰まる。そんな風に上目遣いで言われたら、嫌だなんて言えない。


「嫌じゃないけど、急だったからびっくりして」


あだ名なんて慣れてないから、正直、かなり恥ずかしいんだけど。


「じゃ、あだ名決定だね。よろしくね、ナナちゃん♪」


「……なんでもいいよ」


気づけば、完全に琴里のペースに巻き込まれていた。


そう言えば、少し前にも同じような思いをしたことがあったな。


ふとそう思って、いきなり頭にあいつーー蓮の顔がぽん、と浮かんで、慌てて打ち消した。


なんで今あいつが出てくるのよ。まったく、いつまでも人の頭にまとわりついて迷惑な奴。