たったひとつの恋をください





どんよりと重たい気持ちのまま、家に帰って、ベッドにゴロンと横になった。



天井をぼんやり見つめながら、手を伸ばしてみる。何かを掴むみたいにギュッと握りしめて、また開く。


なんにも、掴めるものなんてない。だけど今は、なんにも掴みたくなんてない気がした。


初めて、こんな感情を知った。苦しくて、もどかしい気持ち。


何も知らないって、今思えば、すごく幸せなことだったんだ。


何も知らずに、ただ君を好きでいられた。


それで充分だった。たとえ届かなくても、ずっと片想いが続くとしても。


大好きな二人が幸せなら、それで充分だと思った。


私の願いは叶わない。叶っちゃいけないんだって最初から知ってたから、そんな風に思うことができた。




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