たったひとつの恋をください




「とりあえず校内はこれくらいかな。次は外ね」


「えっ、まだあるの?」


つい本音がポロッと零れてしまった。


「もうちょっとだよー。疲れちゃった?」


返事の代わりに、諦めて首をゆるく横に振る。


むしろ、なんでこの子は疲れないんだろう。


そもそも、私の案内役なんて買って出て、いったいこの子に何の得があるのかな。


さっき行くとこあるとか言ってたよね。


私なんかほっといてさっさと行けばいいのにーー。


心の中では、いくらだって文句を言えるけれど。それをいちいち口に出すことはしない。


クラスメイトとの関係を不必要にこじらせるなんて、あとあと面倒なだけだから。


下駄箱を通りすぎて、外へと続く渡り廊下に出る。風が通るぶん、熱気のこもった廊下よりずっと涼しく感じる。


中庭を突っ切って行くと、突き当たりには体育館があった。



< 33 / 377 >

この作品をシェア

pagetop